熊本亜記さん × 平澤創 [対談]

フェイス25周年記念Webサイトスペシャル対談企画11

「あの時がピークだった、幸せだった」ではなく、
「これからも楽しいことを発信できる」人を増やしていきたい。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創

日本一の見晴らしの感動を経験したことが
劇団四季を目指したきっかけ。
熊本亜記さん(以後 熊本)
このたびは25周年おめでとうございます。
平澤 創(以後 平澤)
お越しいただきありがとうございます。亜記ちゃんは、劇団四季の研究所に入って、初舞台で「ライオンキング」のヒロイン・ナラ役に大抜擢だったわけだけど、まずはなぜ劇団四季への入団を志したかを聞かせてください。
熊本
小さい頃から母はよく観劇に連れていってくれていました。でも当時は「演劇を観るのは楽しいな」という感じで「舞台に立ちたい」とは思っていませんでした。小さい頃からピアノとクラッシックバレエを習っていたけど、ピアニストやバレリーナになりたいと思わなかった。ただ、音楽は好きで、中学で吹奏楽部に入ったんです。出逢ったサックスがすごく面白くて、成人式とか街のイベントで吹くと喜ばれて。それで「人前で音楽を奏でると喜んでくれる人たちがいるんだ。サックスを続けたいな」と思い、福岡の精華女子高等学校に入学しました。
平澤
吹奏楽の名門。
熊本
そうです。精華女子の吹奏楽部は特待生も多くて、サックスも大所帯で。
平澤
「サックス特待」とかあるの?
熊本
はい。私が通っていた中学校は、地区大会で銅賞レベルだったんですけど、全国の強豪中学校からの推薦で来ている人たちもいて。
平澤
へぇ。
熊本
楽器がうまくなりたいと思って入ったのに、女子校で人数もすごいし、みんなライバルだと思ってやっていたから周りとうまくいかない。それでサックスのグループにいられなくなり、「1人パートの楽器に移ってください」って言われて、初めはファゴット、2年生からソロ楽器で人数も少ないオーボエに転向したんです。
平澤
ファゴットにオーボエ、結構、難しくなかった?まず、音を出すのが大変でしょ。
熊本
Wリードですごく難しかったです。スタートが遅かったし、初心者の状況だったんですけど、オーボエでも先輩とうまくいかなくて、「私がソロを吹くんだ!」と思ってめちゃくちゃ練習しました。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
あはは。結構、負けず嫌いだね。へえ。
熊本
そうなんです。負けず嫌い。それで、先輩の3年生の花となる最後の定期演奏会で2年生の私がソロを吹いた。
平澤
おー、すごいね。それでその先輩との関係は悪化したとか(笑)。
熊本
ご想像にお任せします(笑)。
1年生の時、日本武道館で開催されたマーチングバンド全国大会で優勝して、「日本一、No.1になるってこんなに見晴らしがいいことなんだ」って、すごく感動したんです。「練習を重ねてすごく努力して、集中して、みんなが同じ方向を見てギュっと集まれば日本一になれるんだ、日本一になった時の世界観ってすごいな」って。そこから、せっかく何かをやるのであれば、日本一を目指したいと思うようになったんです。それで高校3年生の時、劇団四季の方が学校に来てくれた時にオーディションの話を聞いて「劇団四季は目指せば入れる、オーディションに受かれば入れるんだ」って実感したんです。しかも、一流の人達がいる劇団四季で「どれだけ通用するか自分を試したい」と、自分の中で「観る側」から「演じる側」に意識が転換したことを覚えています。
平澤
ほう、なるほど。高校を卒業してからは?
熊本
音楽短大に入学して、オーボエをやりながら、夜はレッスンに通っていました。歌もそこから習って。
平澤
初めて習ったの?
熊本
はい。二十歳になる少し前くらい。
平澤
もともと素質があったんだね。
熊本
劇団四季の演出家の浅利慶太先生が仰ってましたが、歌は8割くらい、骨格とか遺伝らしいです。多分、遺伝的に素質がちょっとあった。だから他の人よりは苦労していないかなと思います。
平澤
後から磨こうと思っても、センスのあるなしはなかなか難しいものがあるよね。持って生まれたものに負けず嫌いの性格が重なり、厳しいところを突破できた。
熊本
そうですね。正直、私はそれほど練習しなくても、大きな声、高い音も出たんです。平澤さんは25年会社を経営されてきて、同じような経験ありましたか。あまり苦労せずにできたな、みたいなこと。
平澤
僕には、ある才能があってね。それは「自分の才能がないことを隠す才能」。
熊本
へぇ、面白い。深い。
平澤
楽器を例に挙げれば、実際、ピアノもやるし、ドラムもやるし、昔はギターもやっていたし、フルートもサックスもやっていた。それからチェロもやっている。だから、何でもできるように思われている。実際には「ちゃんとチェロを弾く」という場面になったら困る程度の腕前なんだよ。だから、人に見せる時は、そこだけうまくできるように練習するわけ。
熊本
うーん、ふふふ。
平澤
そうすると、やったことない人たちには、全部できるって見える。
熊本
それも技術ですよね。
平澤
もちろんそう。いかに隠すかの技術。結局、プロデュースするというのは、そういうことだと思っていて、プロデューサーでも、舞台監督でも、全てのことはできないし、全てを知っているわけじゃない。だから、いろいろな専門知識や技術がある人たちが集まって一つの大きなことを成し遂げる。それは会社も同じこと。だから、音楽のプロデュースも、舞台のプロデュースも、それから会社のプロデュースも実は同じことなんです。
熊本
確かに。吹奏楽部でも、劇団四季でも、「一人では無理なことも人が集まればできるな」っていう思いを経験したし、「一人でやるよりやりがいがあるな」という感覚もありました。だからこそ劇団四季は11年も続いたんだと思います。一人だったらもっと早くやめていたかもしれない。
平澤
トップとしてフロントに立つ快感もある。
熊本
いや、私はいきなり「ライオンキング」のヒロイン・ナラをやらせてもらって、正直、嬉しかったですし、快感かなと思ったけど、やっぱり責任もあるし、知らないこともたくさんあってしんどいことの方が多かったです。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
オーディションって何人くらい受けるの?同期とかいるの?
熊本
同期はいます。即戦力ですぐ舞台に立てる人と研究生の区分があるんですけど、応募総数が1500名くらいで、研究生は50名くらい受かります。研究生って、無料でレッスンが受けられるんですよ。
平澤
ほぉ。
熊本
使えるかどうかのお試し期間。
平澤
どのくらいの期間、研究生でいられるの?
熊本
1年です。まず半年後に1回目の試験があります。
平澤
半年でクビにされる人もいるの?
熊本
そうです。
平澤
その後は?
熊本
さらに半年後に舞台に立つための卒業試験があって、それに受かったら、「ライオンキング」や「美女と野獣」「キャッツ」等々、それぞれのカンパニーにキャスティングされます。研究生は、一から劇団四季の方法論を学び、積み上げていくのですが、浅利慶太先生も若手を育てたいので、より研究生の育成に重きをおく風潮が強くありましたね。そこで「いい声してるな」と気に入ってもらって、卒業試験ではナラ役の課題曲「シャドウランド」を歌いました。その結果、「ナラ役に大抜擢しよう」ということになった。今、考えると、福岡から出てきた田舎の子の研究生を、いきなりナラ役にピュッと上げるというのは浅利先生にとっても覚悟がいったと思います。
平澤
いきなりね。本来、木とか草とかをやっているはずなのに。びっくりするよね。
熊本
素質があれば、こうやってチャンスをつかめるから、「みんな努力を惜しまずやれ」っていうのを示したってことだと思うんですけど、経営の中でもそういうことありますか。
平澤
確かに共通項あるよね。うちでは事業ごとにユニットという組織を作っているけど、ここ数年、20代でユニットリーダーをさせることがある。普通は、課長以上、いわゆる管理職を経て、ようやく一つの事業を任せるようにするけれど、主任でもユニットリーダーにしたりすることもある。
熊本
それは大抜擢ですよね。そういう時、会社がざわざわしませんか?
平澤
いや、うちはあんまりそうでもないかな。
熊本
私の時は、いろいろあったみたいです。
平澤
二つの人に分かれるんだと思う。「そうか、チャンスがあるから頑張ろう」って思う人と「ふざけんなよ」って思う人と。だから、妬まれたりする。
熊本
私、生意気だったし。
平澤
(笑)。今は生意気とは思わないけど、納得できないことは嫌だっていうタイプだよね。
熊本
確かにそうかもしれないですね。
「慣れ、弛(だ)れ、崩れ、去れ!」考えないことの重罪。
平澤
この対談場所、暑くない?でもライトとかは、慣れているか。
熊本
そう、私、あまり汗かかないんで、大丈夫です。メイクが崩れるのは嫌ですし。だって『キャッツ』のメイクとか、1時間くらいかかるんですよ。
平澤
あのメイクって誰がやるの。
熊本
自分です。
平澤
うそ!
熊本
本当なんです。「ライオンキング」もです。猫メイク、今度やってあげますよ。
平澤
本当?本当にやってくれるの?やってみたい、やって欲しい!最初だけメイクさんにやってもらって、次から自分でやるということ?
熊本
そうです。前任者が紙に残したメイクデザインをもとに、自分の顔に合わせて作っていきます。みんな顔のつくりが違うから、前任者のデザインのままやったら、リハーサル時に「一匹、狸が混ざっている」って言われました。紙一重なんですよね、猫と狸って。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
へぇ。
熊本
結構、研究して作り上げました。
平澤
僕、完全に狸にならない?形も丸いし。
熊本
いや、大大丈。猫にできます。「ライオンキング』のヒロイン・ナラは高貴な生まれの娘なんですけど、初舞台の時、本当にメイクが下手で共演者に「田舎娘が出てきたわ」って言われました。
平澤
いつのタイミングで?
熊本
本当の最初、初舞台の時。
平澤
へぇ。すごいね。
熊本
その時は号泣して。終電までメイクさんに付き合ってもらって、泣きながらメイクの猛練習しました。「ブスでもメイクでなんとかしろ!顔はキャンバスだから、上手く描け」って言われて。平澤さん、そういうめちゃくちゃ悔しくて泣いたとか、今までにあります?
平澤
悔しくて泣いたこと?
熊本
経営者の方たち、上に立つ方たちは、弱音を吐いたらいけないみたいな感じあるじゃないですか。一方で「もうダメ。一人じゃあかん」みたいな感じで、助けてあげたいってなる方もいますよね。
平澤
僕は、中と外では全然違う。この建物の中に入った瞬間に切り変わる。多分、舞台と一緒。会社が僕の舞台だから。亜記ちゃんだって、その時、どんな想いがあったとしても舞台では出さないでしょ。
熊本
出せないですよね。
平澤
それと同じ。
熊本
じゃあ、やっぱり演じ分けているってことですね。
平澤
そういうこと。中には「私は欠陥だらけ」みたいなスタイルで、社員から自然と助けてもらう経営者もいるし、社員全員が「社長大好き!」みたいな経営者もいる。でもそうするとみんな社長しか見なくなり、間の人間が育たなくなると思っているから、僕は全く正反対。だから会社ではめちゃくちゃ怖い。
熊本
なるほど。劇団四季にはクビがあるんです。会社にはないですよね。
平澤
ないよ。
熊本
浅利慶太先生は、舞台に立つことに慣れると絶対に人を感動させられないという考えから、慣れにすごく厳しい。ほぼ毎日、年間約300ステージ演じる中で、舞台に慣れたら、弛(だ)れて、崩れるから、少しでも手を抜いたり、段取りだけになったりするとすぐにクビになる。毎回新鮮に演じなくてはいけない。平澤さんの会社では、そういった「これは絶対に許せない」というものとかありますか。こうあって欲しいとか。
平澤
会社の経営理念は「あるものを追うな。ないものを創れ。」で、会社全体としてはクリエイティビティを高めていくのが大きな軸だから、事業としては、今の亜記ちゃんの話と一緒で、同じことをやり続けるのはダメ。でも会社という組織の中には、毎日安定して同じことをする人も必要。例えば、照明さんや音響さんは安定していないと困るでしょ。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
熊本
うんうん。むしろ工夫してくれるな、っていう感じですよね。
平澤
僕が厳しさを持っているのは「失敗」に対する考え方かな。まず、自らが失敗したと気付いた失敗に対してはあまり怒らない。会社をよくしようと思ってやったけど、結果、大失敗したというようような、建設的な失敗も怒らない。ダメなのは「言われた通りしました、でもできませんでした」っていう失敗。
熊本
あああ。考えていないっていうことですね。
平澤
おっしゃる通り、試行錯誤もなく何も考えていないっていうこと。
熊本
どの業界もそうですね。
平澤
同じかもしれない。
熊本
劇団四季には、四季法と呼ばれる三つ「呼吸法」「母音法」「折れ法」があるんですけど、この中の「折れ法」というのは、「ありがとう」というセリフを話す際、言葉はあくまでも記号でしかなく、その言葉を伝えるための動詞を確認するものなんです。例えば、「ありがとう」っていう言葉は「折れ」は何ですか、って聞かれる。感謝するから、「ありがとう」という言葉が生まれている。だから、「ありがとう」の折れは「感謝する」です。
平澤
うん。
熊本
細かいニュアンスは、演出家がつけるんですけど、自分の中でしっかり「感謝する」という「折れ」を体に入れて、「ありがとう」って口にすることが大事。「折れ」を聞かれた時、考えてない人は絶対に答えられない。それはすごく怒られて、本当にクビです。昨日より今日、今日より明日って、思っていたら、絶対に考える。考えなくても何となくなぞるというのが慣れであり、考えていないから慣れちゃう。そういう考え方は一緒なんでしょうね。
平澤
そうだね。四季にいた頃と比べると今はどうなの?
熊本
今は知らないことが多すぎて、考えないと一歩も進めないんですよ。それこそ最初はメールのCCとBCCの違いもわからなかった。BCCってアミノ酸の名前?みたいな。
平澤
(笑)。四季の頃と今の生活では、知らないことと解決方法が全く違うと思うけど、どっちが楽しい?
熊本
やっぱり今の方が楽しいかな。劇団四季は、決まりがあるようで正解はない。方法論はあるけど、捉え方も各人によって違うから聞いても納得できなかったり、孤独というか。でも社会ではある程度、決まりを守れば、そこにプラスアルファで自分の考えも入れられるし、自分なりの工夫もできる。みんな親切に教えてくれるので、楽しいです。
平澤
なるほど。確かに、いきなりトップ抜擢となると聞きにくいよね。妬みとか感じることもあったでしょ。
熊本
ありましたよ。「ネットで、デブとかブスとか書かれていたよ」とか、わざわざ報告してくれたりとか。
平澤
(笑)。
熊本
でもやるべき課題が多すぎて、そういう妬みに構っている暇がなかったですね。
平澤
僕、いつも思うけど、誹謗中傷は注目されている、つまり、ある意味うまくいっている証だからね。ノイズと思って気にしなければいい。
熊本
もう仕方ないですよね。
平澤
日本には、出る杭は打たれるという風潮があるから、どんなに美しくて完璧な人でも、目立ったり、人と違うことをしていたら、絶対に何かしら言われるから。
熊本
うん。平澤さんもありますか?
平澤
僕?そりゃ言われたよ。
熊本
若くして成功しやがって、みたいな。
平澤
そりゃそうだよ。昔は感じることはあった。まあ、ソーシャルもあるし、調べようと思えばいくらでも調べられるけど、見る暇もないから見ない。それが正しい対処法だと思う。
熊本
そう、「ブス、デブって書かれていたよ、大変だね」って言ってきた子も私のことわざわざ調べてくれたんだ、書き込んでくれた人もその人の時間や労力を私に使ってくれたんだ、ありがとうと。
平澤
そうそう。
新しいことに挑戦する恐れや不安を
和らげる存在になりたい。
平澤
これから、どうしていきたいって考えているの?
熊本
劇団四季は、ダンスとか歌に打ち込んできた人ばかりで、就職活動もしたことがないし、外は知らないことばかりだからと、四季を去るのを不安がっている人が多いんです。辞めても、技術はあるのに活躍する場所がなく、ずっとバイト生活をしてる人たちも多い。私は、ご縁をいただいてFFE(一般社団法人フード&エンターテインメント協会※)などで社会勉強をさせていただく中で、世の中にはさまざまな働き方があって、自分にも役に立てる場がいろいろあるんじゃないかなって思えてきています。辞めてから「亜記さん、どうしているの?」「何しているの?」って聞かれるようになって。だから、後先考えずに辞めた熊本亜記だって何とかやれているんだから、何とかなるんだなって、みんなの恐れや不安を少しでも和らげる存在になれたらいいなと思っています。

※ホテルや飲食・エンターテインメント業界の新たな事業の創設、発展および市場の活性化・産業の育成に寄与することを目的として設立された団体。平澤が理事を務める。

熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
平澤
うんうん。
熊本
私は、劇団四季を辞めてから、舞台、ミュージカルには出演していません。今はMCや司会もやらせていただいていますけど、これまで四季の人たちがやってこなかったジャンル、やってこなかった場所で勝負してみたいし、「劇団四季にいた時が一番輝いていた」ではなく、今までの延長線上じゃない活躍の仕方もあると示したい。「あの時がよかった」じゃなくて、「あれがあったから、今、こういうことができている」って。だから、今もどこにも所属しないで、いろんなことにチャレンジさせていただいて、自分を試している状況です。
平澤
なるほど、なるほど。今、いくつか挑戦している中で、この方向を深めてみようかな、っていうのは出てきているの?
熊本
うーん。平澤さん、ニューヨークの「スリープ・ノー・モア」行かれました?
平澤
行ってないんだよ。館内を回りながら観る体験型のショーでしょ。面白いらしいね。
熊本
今までにない新しい試みですよね。あとオフブロードウェイで公演されている「スウィニー・トッド 」。主人公のスウィニー・トッドが自分の過去を知る人たちの髭を剃るふりをして喉を掻き切って殺し、その人肉で作るミートパイの店が大繁盛して、という話です。リアルなパイ屋さんのセットの中のテーブルに座り、目の前で俳優さんたちがカウンターやテーブルに上がって演技をする。それがすごく面白くて、久しぶりにワクワクしました。食とエンターテインメントと場所、まさにFFEにぴったりだなと。持って来られるかはわかりませんが、大きなヒントをもらったな、と思いました。
平澤
そうだね、進めてよ。さっき話しに出た「スリープ・ノー・モア」もそうだし、世界では面白い試みがたくさんあるよね。日本も2020年に向けて法律も改正され、できることが増えてきたけど、「じゃあ実際に何をやるの?」というところが弱いよね。
熊本
国民性もあるし、出尽くしちゃっている感もあるし、FFEでもずっと議論していますよね。その中で、この「スウィニー・トッド 」は「日本にもマッチするんじゃないかな」って閃いたんです。普通のレストランでできるし、キャスティングも劇団四季の出身者だけでやるのも面白いかなって。
平澤
それは、面白いかもしれない。そういうアイデアをたくさん企画してくれたらいいよ。
熊本
そうですね。劇団四季を辞めたみんなの能力を活かせる場所がもっとあるといいなとも思っているので。
平澤
最近ようやく「ナイトタイムエコノミー」って一般的な言葉になってきたよね。最初は、夜遊び推進みたいなことはできないといった感じがあったけど、ようやく変わりつつある。ブロードウェイでは「ライオンキング」だって遅い時間からの公演があるし、オフブロードウェイはもっと深い時間から始まるものが多い。それができるのは、ニューヨークの地下鉄には終電がないことがその理由のひとつ。
熊本
そうそうそう。
平澤
犯罪の温床って言われていたニューヨークの地下鉄を24時間走らせたことで、市民の目、観光客の目によって犯罪を抑止する効果に繋がっているっていう。
熊本
その話、初めて聞いた時、感動しました。
平澤
政策だよね。ただ、日本にもいよいよIR(カジノを含む統合型リゾート)ができた時、そこでエンターテインメントって何するの?では困る。初めはそのほとんどが海外から来るでしょ。それがメイドインジャパンのものになるとどうかな、と。亜記ちゃんは日本人として生まれて、劇団四季にいて、日本の文化を世界に発信していく何かを作れる可能性があるわけだよ。
熊本
うんうん。
平澤
それは、「あの時がピークだった」ではなくて、「これからこんなに楽しいことを発信できる」、そういう機会を作っていける、今、すごいチャンスの時だと思うけどね。
熊本
そうですね、FFEでも勉強させてもらっていますし。
平澤
企画を出したら、実現できるメンバーばかりでしょ。だから、「いつ頃公演やろう」と自分の中でゴールを決めて準備に入らないと。積み重ねて、いずれできたらいいなでは、いつまで経ってもできないから。だって、それも夢の一つでしょ。
熊本
四季に在籍している時は、「四季をやめても、辞めてよかったと思える日々にしたい」っていうのが夢だったんです。今、その夢は叶っています。少しずつですけど。
平澤
そんなことはない。「こうなったらいいな」っていう気持ちがあるのは、発展途上にあるっていうことだから、新しい飛躍への前夜。まさにそういう感じがしているよ。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
熊本
平澤さんのこれからの夢ってどんなことですか。もうやり尽くしちゃったかな。
平澤
いや、僕、創業時に実現させたいと思っていたこと、未だにできていないんだよね。
熊本
何ですか。
平澤
いっぱいあるけど、その一つを話すと、音楽している人、エンターテインメントしている人の目的は何かって言ったら、自分の作品を多くの人に聞いて欲しい、広く届けたい、ただそれだけなんです。願わくば、お金がたくさんもらえたらいいかな、とそのくらい。にもかかわらず、芸能プロダクションとか、レコード会社とか、間にたくさんの業者が入っている世界になっているでしょ。
熊本
なっている。
平澤
でも今、UberやAirbnbとかeコマースについては間に業者がいない、ダイレクト。
熊本
そうですね。
平澤
フェイスは、音楽も将来的にそうなるだろう、アーティストとユーザーが直接繋がるような世界になるだろうと考えて作った会社だけど、まだそうなっていないんだよね。
熊本
そっか。どちらの夢が先に叶うか競争ですね。
平澤
まあ、お互いそうなった時にもう一回、対談しようね。退団じゃなくて、対談。
熊本
(笑)。でも、普段は退団ってみんなあんまり言わないから。
平澤
言わないの?じゃあ、卒業って言うの?
熊本
ああ、卒業っていいですね。そうすると、元劇団四季じゃなくて劇団四季出身になる。
平澤
すごくいいね。そのように変えましょう。
熊本
先ずはそこから、今日から変えましょう!私は、素敵な役を経験させてもらった後、さらに劇団四季出身の人たちと何かしたいっていうやりたいことが出てきて、次の段階にまだ夢があるっていうのは、ワクワクするし、幸せなことだなと思っています。そういったタイミングで、人が羨むようなキャリア、経歴を積み重ねて、さらに人を楽しませたい、やりたいことがある!と、おっしゃっている平澤さんと出会うことができたのはすごく意味があると思っています。次の夢を叶える階段を一緒に経験、体験させていただきたい、これからもそういう関係性で報告させていただきたいと思います。
平澤
ぜひ、そうしましょう。本日はありがとうございました。
熊本
ありがとうございました。
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創
熊本亜記さん×株式会社フェイス代表取締役社長 平澤 創

熊本亜記(くまもと・あき)さんプロフィール

福岡県出身。日本マーチングフェスティバル大会でグランプリ受賞後、高校3年の時、劇団四季への入団を志す。3回目の挑戦にて、2003年劇団四季の研究所に入所。入団翌年、「ライオンキング」のヒロイン・ナラ役に抜擢され初舞台を踏む。その後、「コーラスライン」「キャッツ」等の人気公演での大役を務める。2015年8月に退団。退団後はミュージカルへの出演は控え、音楽、MC・司会業など、新たな領域への活動の場を広げ、可能性を拓き続けている。2016年6月に発足した一般社団法人フード&エンターテインメント協会(FFE)の活動に参画。